「…ゴメン。痛かっただろ。」
コクンと頷いた。
「俺も我慢してたんだけど…。」
又、コクンと頷いた。
「…こっち向けよ…。」
私はハルに顔を見られるのが恥ずかしかった。
振り向いて、ハルの胸に顔を当てた。
ハルは私の肩を押して顔を覗き込もうとする。
「嫌だったか…?」
頭を横に振った。
「襲われた時は、痛くて屈辱的でどうしてこんな目にあわなきゃいけないんだって思ったけど、今日はそうでもなかった。少なくとも自分で誘ったんだし…。でも……痛かった…。」
ハルは、私の頬を親指で撫でた。
「泣かせちゃったな…。」
私は顔を背けた。
「ナミダの痕…ある?」
「うん。」
泣いた痕を人に見られるのは凄くイヤだった。
自分が弱い気がして…。
頬をごしごしと擦っていると、階下から物音がした。
階段を上って来る音だった。
ハルは私に夏蒲団を掛け、脱いだ服をベッドの下に押し込む。
「寝たフリしてろ。」
ハルは近くにあったジャージのパンツとTシャツを身に着け、椅子に座った。
上り切った足音は部屋の前を通り過ぎ、隣の部屋の扉を開けた。
ドサッという音がして暫くするとイビキが聞こえてきた。
もう私の事など忘れているのだろう。
ハルと私は顔を見合わせ、くすくすと笑った。
途端、イビキが止まった。
ゆっくり部屋の中を歩く音がする。
部屋を出て、ハルの部屋の扉を開けた。
「やっぱりこっちに居たんか。」
ハルの兄、即ち私の仲間、大地が顔を出した。
私は寝たフリをしていた。
勝手に部屋に入ってきて、私に掛かっている夏蒲団を捲った。
私は大地のイビキが聞こえるまでに、ベッドの中でパンツとGパンを穿いていた。
上半身裸のままだったが、それはそれでいい。
「千奏、俺の部屋で寝ろ。」
私の肩を揺すった。
「そのまま寝かせておいたら。」
ハルが助け舟を出した。
「俺なら下で寝るから。」
「何でこいつはお前の部屋に来たんだ?」
「兄貴が居なくなったから来たんだろ?話してる内に寝ちゃったよ。」
「…こいつ寝てる間に脱いだだろ。」
「…え…。」
私は脱ぎ癖があるらしく、寝ている間にいつも裸になっている。
「…もー、うるさいな…。起きちゃったよ…。」
「ほら、行くぞ。ハルの邪魔するな。」
私は今起きましたと言わんばかりにノロノロとTシャツを着て、ハルの部屋を出た。
「ねぇ、大地。」
「ん?」
「ハルと付き合っちゃ、駄目?」
「好きになったんか?」
「…うん。」
大地の部屋の扉を完全に閉めなかった。
「お前、巽の女だって自覚無いだろ。」
巽は良く遊んでいる友達だ。
「巽とは別に何でもないよ。」
「巽にだってプライドってモンがあるだろ。バレたらチームで廻されるぞ。」
廻すという言葉に過剰に反応してしまう。
レイプされた過去が圧し掛かってくる。
ジワッと涙が溢れた。
こぼれない様に数度瞬きをした。
「…巽の女じゃないモン…。」
「お前だけだよ、そう思ってるのは。」
「巽だってそうだよ。あいつ、女だったら誰でも良いんだ。」
大地がベッドに腰掛けて、私を見ていた。
「女なら誰彼構わず寝るアイツが、お前と寝ないのは何でだろうな。」
「女と思ってないから。」
「大事にしてるからだろ?わっかんねーのかなぁ。」
「…私がその気無いんだから、分かるわけ無いじゃん…。大体、大事にしてたら寝ないの?おかしいじゃん、そんなの。」
「男はな、好きなヤツ程手が出せねーんだよ。」
「好きな女には手が出せなくて、他の女には勃つんだ?…オカシイよ。大地は有香じゃなくても勃つんだ?」
有香は大地の彼女で、大地は有香にベタボレだった。
だから大地の部屋へは襲われる心配無く泊まりに来られる。
「有香じゃなくても勃つなら、私泊まられないね。」
大地は黙って私を睨んでいた。
私は、巽が安心して泊められるのは大地の部屋だけなのを知った上で言った。
暫く大地と睨みあう。
「…大地の言い分は男の立場でしか言って無いじゃん。私が他の男と遊んでたら、巽はどう思う?私を好きでなんかいないよ。」
大地が何か言おうと口を開けた。
「俺が巽さんに言うよ。千奏を下さいって。」
私の後ろからハルが顔を出した。
私はハルに振り向いた。
「…駄目だよ。巽は優しそうに見えるけど、あれでも暴走族のチームを背負ってるんだよ。キレたら大地でも…。」
「そっ。俺でも止めらんねーよ。」
大地はそれだけ言うとソッポを向いて寝てしまった。
「今日、巽さんに会いに行くよ。」
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